ことばと文化のミニ講座

【Vol.54】 2011.4   勝又 基

卒論テーマの決めかた

年末は卒論の季節

学園祭も終わり、街にクリスマスの声が聞こえるようになると、わが日本文化学科は「卒論」一色になります。本学科の卒論提出締切は毎年12月10日前後なので、4年生にとっては最後の頑張りの時期です。

そしてもう一つ、3年生にとっても「卒論」の2文字がクローズアップされる時期です。本学科では卒業論文の仮題目を提出しなければならないからです。3年生は12月の初めまでに卒論の研究テーマを決め、指導教官になってもらう先生からハンコをもらわなければなりません。

この文章では、本学科ではどんな卒論が書けるか、卒論のテーマを決めるためには、どのような事に気をつけたら良いか、という事について、私の考えを記していきたいと思います。

思い出す卒論テーマ

本学科は日本「文学科」ではなく日本「文化学科」ですから、文学にこだわらない幅広い研究テーマで卒論を書くことができます。

私が本学に赴任して最初の年に担当したある学生は、私のところに来て「先生のところで卒論を書きたいんですが、僕サッカーにしか興味ないんです」と言いました。

私の専門は江戸文学です。おいおいサッカーが日本文化かよ、と最初は思いましたが、「ではサッカー古いサッカー雑誌でも読んでみたら?」と勧めてみました。さいわい彼には行動力があり、数週間後には私の目の前に「蹴球」という雑誌の第2号を持って来てくれました。刊行は昭和10年。いまはネットで古書が探せるので、やる気さえあれば手に入ります。

雑誌を開いてみると「世界一蹴記(いっしゅうき)」と題した世界各国のサッカー情報など、なかなか興味深い内容が記されています。「この時代、こんなすごい雑誌を作ったのは誰だろう?」と、学生の興味は編集者の方へ向きました。

学生の調査によると、初代編集長は千野正人氏。明治35年神戸の生まれ。14~5歳ころ(大正初期)には、当時神戸にはチェコ人が多くいて、チェコ人からサッカーを習ったという。神戸一中から進学した慶応大学ではサッカー部を創立し、卒業後に大日本蹴球協会に所属した、というのです。なるほど、このような経歴の人がいたからこそ、「世界サッカーめぐり」などの興味深い記事が書けたのですね。

一見変わったテーマでも、このくらい調べてくれると面白いものになるという好例です。

おもしろテーマは難しい

ただし、私は皆さんにこうした変わったテーマを勧めている訳ではありません。こうしたテーマを研究するのは、じつは難しいのです。今挙げた学生くらい頑張って調べないと、悲惨なものになります。

それに対して、『源氏物語』や夏目漱石などよく知られた、いわば王道的なテーマの場合、勝算も無いのにドーンとぶつかってはみたものの、結局何も出てこずに玉砕ということがよくあります。でもこういうテーマだと、なぜか許されるような所もあります。就職活動でも、「私はこれこれを研究しています」と話しやすいでしょう。

奇抜なテーマを取り上げるのには、それなりに決意が必要だ、ということです。

テーマを決める時の突き詰めかた

奇抜な物でも正統派な物でも、卒論のテーマを学生と話し合う時、「ではあなたの卒論を面倒見ます」と私がハンコを捺すかどうかを決める基準は一つだけです。それは、「手作業がイメージできているか」ということ。

もうすこし具体的に言うと、「上田秋成をやってみたい」とか、「江戸の子供絵本について研究したい」というだけでは足りません。上田秋成をどう研究したいか、という事まで考えてみて欲しいのです。

私の経験から言うと、その手作業は大雑把なものよりも、絞り込んだ作業の方が研究していて楽しいです。私は恩師からよく、「どんどん重箱の隅をつつけ。そうすれば突き抜けて広いところに出るから」と教わってきました。今になって、本当にその通りだと思います。

また私が指導して来た経験からすると、テーマ決定の段階(3年12月)にこの程度まで絞っておかずに4年生になると、結局研究の具体的な方法が決まるのは夏休み明けまでずれ込みます。こうなると良い卒論が書ける可能性はきわめて低くなってきますよね。構想の段階で、先生に「なるほど、そうやって調べれば、何か出て来そうだね」と言わせるくらいで丁度良いと思います。

先生と話をしてみよう

もちろんこれは私の考えであって、学科の教員がすべてこのように思っている訳ではありません。むしろ、教員によってバラバラ、と言って良いかもしれません。同じ学科内でも、学問に対して正反対の価値観を持っているというのは、よくあることです。しかし学問の方法や目的は一つではないので、多様さがあったほうが健康的とも言えます。講義や演習で、先生の興味の幅や研究方法などを見極め、自分に合った先生を選びましょう。

まずは授業の終わり時間にでも、教壇に行って先生と卒論テーマについて話し合ってみてはどうでしょう。できれば複数の先生をたずねて、いろいろと話を聞いてみれば良いと思います。授業では見られない、先生のマニアックな側面に接することができるかもしれませんよ。

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