ことばと文化のミニ講座

【Vol.33】 2008.12   柴田 雅生

絵巻・絵本を楽しむ

博物館や展示会などで、昔の絵巻や絵本を見たことがありますか。記憶に残っているものとしては、国宝の『源氏物語絵巻』や『鳥獣人物戯画』『北野天神縁起』あたりが代表的でしょうか。

現在に伝わる昔の絵巻・絵本には、内容面では物語絵巻や説話絵巻、合戦絵巻、経典絵巻、縁起絵巻、伝記絵巻など、制作年代では鎌倉時代から江戸時代末期までと、さまざまな種類があります。中でも数多くの作品が残されているのは、御伽草子や仮名草子を中心題材として室町時代後期から江戸時代中期に制作された色鮮やかな作品で、通称奈良絵本・奈良絵巻と言われるものです。まだ世に紹介されていないものも相当数あると想像され、その合計は数千を下らないと言われています。作者も制作年代も不明であることがほとんどです。

明星大学所蔵の絵巻・絵本

本学にもいくつかの絵巻・絵本が所蔵されています。それも、他にあまり例を見ない特徴を有する貴重なものばかりです。それらのうち3点を対象とする公開シンポジウムを先日(11月22日)開催しました。その時の話を少し紹介したいと思います。

 取り上げたのは、『平家物語』絵本10冊、『北野通夜物語』絵巻2巻、『十番切』絵巻2巻です。いずれも軍記物語に関わる作品で、『平家物語』は言うまでもなく『平家物語』を、『北野通夜物語』は『太平記』の一節を、『十番切』は『曾我物語』を題材とした幸若舞という中世芸能の一曲を、それぞれ絵巻・絵本に仕立てたものです。

『平家物語』

『平家物語』絵本は全12冊であったものが、残念ながら第1冊と第12冊が失われています。最大の特徴はその絵です。『平家物語』は武士が活躍する話ですから、武士をどのように描くかが焦点となるはずです。『平家物語』の絵巻・絵本では林原美術館所蔵『平家物語絵巻』が知られていますが、確かに勇猛果敢な表現が多く、合戦の描写も迫力があります(林原美術館所蔵本は写真版が出版されています)。それに対して、明星大学所蔵本はこれが苦手のようです。右の図版に見るように、七つ道具を背負う武蔵坊弁慶もかわいらしく、ほほえましい印象に描かれています。同じ作品を題材としても、ずいぶんと印象の異なる絵本となっているのです。

『北野通夜物語』

『北野通夜物語』絵巻は、明星大学所蔵本の他に1種類が伝えられていますが、それ以外にはまだ見出だされていない作品です。南北朝争乱の末期、南朝に仕えていた日野僧正頼意が京都の北野天満宮に夜通しで参詣した際、居合わせた三人が理想の政道を語るのに耳を傾けるという話です。この絵巻の特徴は絹地に描かれた点です。この技法は、紙に描くよりも細かな描写にすぐれています。絹地に描く例は他に国宝『一遍聖絵』などがありますが、軍記物語の一節がこのようなかたちで描かれるのは極めて珍しいと言えます。

『十番切』

『十番切』絵巻も伝えられている絵巻・絵本が少ない作品です。曾我兄弟の仇討ちを題材にし、親の敵を討った後の十番勝負とその後を描いていますが、描かれてもおかしくない残虐な場面をそれとなく隠して、上品に表現しています。右の図版では、曾我兄弟の兄・十郎の首が着ていた着物に包まれ、弟・五郎の前に置かれています。

絵巻・絵本の展示と楽しみ方

本学所蔵の絵巻・絵本だけでなく、絵巻・絵本の一つ一つにはそれぞれ特徴があります。類型化された表現も少なくはないのですが、よく見てゆくと、それぞれを描いた絵師が得意とする絵柄や場面が浮かんできます。ところが、それを実物の展示から感じ取る機会はさほど多くないように思います。

理由の一つは、展示会等で全巻を通して見せることがあまりないからだと思われます。絵巻の場合はどれだけ広げて展示できるかによりますが、短いものでも4~5メートル、長いものでは20メートル近いものもありますから、それだけ長い展示ケースが必要となります。多くの場合は、挿絵の一つか二つを開いて見せる程度でしょうか。広げて見せられない挿絵をパネル写真で補う方法や、展示替えといって展示期間内に見せる場面を替える場合もありますから、実物の全巻をまとめて見る機会は少ないと言ってよいでしょう。また、絵本は本来ページを繰って見るわけですが、実物を開いて見ることはまず出来ません。実物は1点だけですから、見開き2ページ分を実見するのが関の山です。

このように、絵巻・絵本の展示というのは、通常その一部を見ることとなり、絵巻・絵本の全体像を見ることはなかなかないのです。これはやむを得ないことですが、何とか全巻を楽しむ方法はないだろうかとの考えから、インターネット上に画像を公開しているところが多くなってきました。本学でも、以下のサイトを設けました。

奈良絵本・絵巻の世界
~武士の物語絵巻をよむ~

http://ehon-emaki.meisei-u.ac.jp/

まずは画面上で本学所蔵本のそれぞれの特徴を御覧ください。そして、実物展示の機会には、ぜひ個々の場面に目を凝らしていただけたらと思います。これからの絵巻・絵本の楽しみ方は、実物の展示とサイトや書籍の画像を積極的に組み合わせるかたちとなるのではないかと考えています。

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