ことばと文化のミニ講座

【Vol.25】 2008.1   勝又 基

講談体験のすすめ

講談(こうだん)という芸をご存じでしょうか。江戸時代から続く伝統的な話芸の一つです。近年のテレビドラマなどの影響によって、落語については何となく分かるという人も増えて来ました。でも、講談については全く知らないという人が多いのではないでしょうか。

 言語文化学科では体験教育を重んじています。その一環として、日頃の授業や公開講座において、講談師の先生をお招きした体験講座を何度か行って来ました。ここではその一端をご紹介しながら、講談の魅力について説明してみたいと思います。

張り扇と釈台

公開講座のひとこま。先生の前に置いてあるのが釈台。みなさんが持っているのが張り扇です。
公開講座のひとこま。
先生の前に置いてあるのが釈台。
みなさんが持っているのが張り扇です。

講談では「釈台(しゃくだい)」と「張り扇(はりおうぎ)」という道具を使います。これが最も分かりやすい落語と講談との違いでしょう。テレビ「笑点」の大喜利で司会者の前にある台、あれが釈台だと思って下されば大丈夫です。講談では、その釈台を和紙と竹で作った張り扇でパンパンと叩きながら物語を語ってゆきます。

張り扇を叩くタイミングは主に2つです。1つは場面が転換する時。もう1つは「修羅場(ひらば)」という戦いの場面です。戦いの場面を語る時、講談では独特の調子を用いるのですが、その要所要所でパンパンと叩く事で、その語りにリズムをつけ、さらに勇ましさを増して行くのです。たとえば講談「鉢の木」名場面の一節を例に挙げてみましょう。

さても源左衛門その日のいでたちいかにと見てあれば〈パンッ!〉金コザネ緋おどしの伊達鎧におんなじ毛糸の五枚シコロ〈パンッ!パンッ!〉……。

このように、張り扇を叩くタイミングは、話しながらではなく、話の切れ目です。このタイミングでの〈パンッ!〉は、調子を取るだけでなく息継ぎをするという役割も果たしているのだそうです。

張り扇の魅力

張り扇を手作りする学生たち。作り方は講談師の神田陽子先生に教えて頂きました。
張り扇を手作りする学生たち。
作り方は講談師の神田陽子先生に
教えて頂きました。

初心者でもコツさえつかめば、張り扇で釈台を叩くと「パンッ!」と小気味よい音が出ます。私のような素人だと、肝心な時に限って「スカッ」と情けない音になってしまうのですが…。それでも、実際に張り扇を叩いて良い音が出ると、誰でもフツフツと血が沸き立つような気持ちがして来ます。この芸の面白さを知るためには、見る事ももちろん重要ですが、まず張り扇を持って叩いてみる事をおすすめします。

夏の公開講座で行った講談教室では、張り扇の魅力を味わっていただこうと、学生たちと張り扇を手作りして、150名の参加者全員にお配りしてみました。その時の受講者の方々の反応は忘れられません。最初はみなさん、張り扇を持っても不思議そうにしていらっしゃいました。しかし講談師の先生の声に合わせて叩く練習を始めたとたん、目の色は一気に変わりました。老若男女がパンパン!と激しく叩く音は練習が終わってもしばらくは止みませんでした。

全員分の張り扇を作るのは簡単ではありませんでしたが、その苦労は報われました。そして、張り扇を叩きながら語るというこの芸の面白さを、改めて思い知らされたのでした。

体験して分かる事

実際に張り扇を持って叩いてみると、講談を鑑賞する目・耳も急激に育つから不思議です。「さても源左衛門…」とみんなで揃えて発声するのは、それほど敷居の高い事ではありません。しかしその後で講談師の名人とされる方々の芸を見ると、磨き上げられた芸の迫力が、より一層迫力を持って迫って来るのです。

そしてその先には、講談という芸の奥深い世界が広がっています。講談には、忠臣蔵や怪談をはじめとして、戦記、名人伝、孝子伝、女性伝など、さまざま話題があります。そこに通底するのは、人間の生き方を語る事だと、私は考えています。彼らのさまざまな生き方(死に方)が、講談師の技によってありありと(時に見てきたように)描き出されて行くのです。

もっと張り扇の普及を

まず張り扇を持って叩いてみる。この事は講談という世界への入口として大変有効だと考えています。みなさんも機会があればぜひ張り扇を手にしてみてください。

しかし、ひとつ問題があります。じつは、張り扇はなかなか手に入らないのです。売っている所はほとんど有りません。仕方なく手作り、という事になりますが、ネットで検索しても、細かい作り方はなかなか出てきません。

いま講談は落語ほどの人気があるとは言えません。今よりももっと多くの人々に講談の楽しさを知ってもらうために、誰でも簡単に張り扇を持てるような環境作りから初めてみてはどうかと考えています。

学科の取り組み