ことばと文化のミニ講座

【Vol.16】 2006.8   元本学科教員 和田 正美

日本語の特質について

1 知られていない小説

言語と言語を比較するのはよいことであり、学力を蓄えてそれを大いに行って頂きたいものですが、日本語と外国語を比較するとすぐにわかることがあります。それは日本語では、会話の状況や話者の立場に応じて表現が様々に変わり得るということです。日本語には固定した言い方がないのに対して外国語にはそれがあるという考え方は、日本語を外国語より劣った言語とみなす人が時々述べることですが、それは正しくありません。外国語でも目上と目下に話しかける言葉は違っているのが普通です。しかしその種の違いが日本語ほどはっきりしている場合は珍しい。

「おまえはいつ来たんだ?」

「君はいつ来たの?」

「あなたはいつ来たんですか?」

「あなたはいつ御出になりましたか?」

という4つの言い方の違いを考えて下さい。この違いはもちろん、話し手と聞き手の関係の違いから出てきますが、私たちは同じ相手と話していても、その会話の雰囲気に応じて、これらの言い方を混ぜ合わせることがないとは言えません。話し上手とは、表現の転換を素早く自然に行える人のことを指していうのでしょう。誰かを馬鹿にしたい時、大抵の人は乱暴な言葉を使いますが、ことさらていねいな言葉を使って自分の軽蔑感を鮮明にすることだってできます。その方が相手は傷つくのであり、そう考えると、差別語は悪い言葉だからなくした方がいいという思いこみは根本から間違っていることになります。また日本語には男言葉と女言葉の違いがある。これは日本語が高度に発達したことの証しであり、決して封建性の表れなどではありません。

2 日本人の心構え

言葉は意味が通じればそれでいいというわけのものではありません。人間と同じく言葉は可能性を秘めております。私たちは努力して正しく美しい言葉を使うようにしなければならない。少なくとも日本人として日本語を話したり書いたりする時には、その特質をわきまえておくべきでしょう。繰り返しますが、日本語は状況で変化する柔軟な言葉です。仲間で使える言葉の多くはその場から離れたら使えないと心得て下さい。学生が教員にまるで友達のように話しかけるのを聞いた時、私はその学生を軽蔑する以上に、 その教員を軽蔑しました。学生との間にその程度の人間関係しか作れないようでは教員としての職責を果たしたことにならないからです。 また女はよほど特殊な状況を除いて、男言葉を使ってはいけません。男女の間に何の差もないという歪んだ教育思想とは縁を切って下さい。一般的な状況における注意事項を以下に列挙します。「れる、られる」の敬語は(言葉における手抜きの印象があるので)なるべく避けること。「卒業論文→卒論」のような社会的に承認された語以外の省略語は言わないこと。外来語はそれ以外に適当な言い方がない場合にだけ使用すること(フラワーは良くない)。

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