ことばと文化のミニ講座

【Vol.12】 2006.2   古田島 洋介

返り点は一体どうなっているのか?

大学の学習で何よりも大切なのは、「わかったような気にならないこと」です。 「ああ、あれか」などと思った瞬間が一番あぶない。 わかったような気になっているだけで、頭のなかにはあやふやなイメージしかなく、実はろくにわかっていないことが多いものです。

たとえば、漢文に返り点というものがあることは、だれでも知っているでしょう。〈レ〉点を打ち、〈一二〉点を使ったら、その外側に〈上中下〉点を用い、さらに〈甲乙〉点を懸け、それでも足りなかったら〈天地人〉点を使う。「そんなことわかっている」と言うかもしれません。でも、よくよく考えてみると、果たして「わかっている」と言えるかどうか。失礼ながら、いささか怪しいというのが本当なのではないでしょうか。  

ここで返り点に関する問題を二つ出してみましょう。

  1. Q1.〈甲乙〉点には全部でいくつの符号が用意されているのでしょうか?
  2. Q2.〈天地人〉点まで使っても返り点が足りなかったら、どうすればよいのでしょうか?

もしこの二つの問題についてすぐに正解が答えられたら、その人は文字どおりの漢文オタクです。だいたい、こんな問題それ自体、ふつうだれも考えはしません。けれども、こうした問題をも自ら提出し、そして自ら解答を探すのが大学での学習の一端なのです。

二つの問題の解答をまとめておきましょう。

  1. A1.十干〈甲・乙・丙……〉に続けて十二支〈子・丑・寅……〉が想定されている可能性がある。

つまり、〈甲乙〉点には10個または22個の符号が用意されていると考えられる。

  1. A2.〈元亨利貞〉点または〈乾坤〉点を用いるとされている。統一された共通の返り点は存在しない。

「10個または22個……と考えられる」だの、「〈元亨利貞〉点または〈乾坤〉点を用いるとされている」だの、いずれもすっきりしない印象ですが、これが正解なのですから、我慢するしか仕方ありません。このような複雑かつ曖昧な現象に対する知的忍耐力を養うのも、大学における学習の目的の一つと申せましょう。

では、返り点は一体どのような体系を成していると考えればよいのか。国際的な視野から見ると、返り点はどのような性質の符号だと理解できるのか----こうした問題には、大学の教室で答えたいと思います。少しでも興味を感じたならば、ぜひ日本文化学部言語文化学科を訪ねてきてください。

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