ことばと文化のミニ講座

【Vol.2】 2004.11   柴田 雅生

文字であそぶ日本人 -日本人にとって文字とは?-

文字表記は日本語の大きな特徴

私たちが日常的に使っている日本語。他の国の言葉と比べた時、どのような特徴があるのでしょうか。よく取り上げられるものを示すと、

  • 敬語の表現が豊富である。
  • 単語の数が非常に多い。
  • 文字表記が多彩である。
  • 全国各地の方言が豊かである。

などがあります。このうち、異論が一番少ないのが文字表記の多様さと言えます。「あいまいな言語である」「むずかしい言語である」という場合もありますが、必ずしも科学的な説明とは言えません。

確かに、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット(ローマ字)の複数の文字の種類を使いこなし、縦書きにも横書きにも書くことがあるという特徴は、他の言語には見られません。特に、こう書かなければならないという厳密な正書法がない(例えば、「ばら」「バラ」「薔薇」のいずれにも書くことがあります)のは、漢字の習得などとともに日本語の難しさと言ってよいかもしれません。
 しかし、私たちは文字を書き記すのに困難を感じているでしょうか。どんな漢字であったか思い出せない場合もあるでしょうが、むしろ、さまざまな文字の使い方や表記のしかたを楽しんでいるとは言えないでしょうか。

文字遊びの歌

吉田兼好の『徒然草』第62段に次のような話があります。

延政門院幼(いときな)くおはしましける時、院へ参る人の御言づてとて申させ給ひける御歌、

二つ文字 牛の角文字 すぐな文字 ゆがみ文字とぞ 君はおぼゆる

こひしく思ひまゐらせ給ふとなり。

延政門院(悦子内親王)が、幼いころに、父(後嵯峨天皇、この時は上皇)にあてた和歌の話です。和歌の初句「二つ文字」とは仮名「こ」のこと、以下同様に、「牛の角文字」は「い」、「すぐな文字」は「し」、「ゆがみ文字」は「く」を指し示すと考えられます。

二つ文字 → こ

牛の角文字 → い

すぐな文字 → し

ゆがみ文字 → く

したがって、この歌は「こいしくとぞ君はおぼゆる」となり、君(=父親)のことを恋しく慕っております、という意味になります。一種の謎解き、言葉遊びを元にした可憐な話です。
 この話に見るだけでなく、私たちの周りにも文字に関するさまざまな言葉遊び(文字遊び)を見つけることができます。例えば、「へのへのもへじ」と書くと人の顔となるもの、じゃんけんをして「グリコ」「チョコレート」「パイナップル」で進む歩数を決める遊び、「日」という漢字に一画を足して多くの漢字をつくり出すクイズなどです。「峠」や「凩(こがらし)」などの国字(日本で作られた漢字)の成り立ちに、遊びの要素を見ることもできるでしょう。

日本人の文字との付き合い方は特別?

現在では五十音図にとってかわられたかたちとなっていますが、以前の仮名の学習には「いろは歌」が一般的に用いられていました。この「いろは歌」は、成立当時のすべての仮名をそれぞれ1回ずつ使ってつくられたもので、こんなことができるのは空海(弘法大師)くらいだろうという伝説も出来ました。「いろは歌」の作者は不明ですが、このころ(平安時代中期)から文字遊びにも似たことがあったと言ってもいいかもしれません。

日本人は、中国から伝わった漢字を使うだけでなく、漢字をもとに仮名を生み出しました。いわば日本語表記用の文字をつくり出したのですが、漢字は捨てずに使い続けてきました。このことが、言葉と文字が一対一には対応しない関係、両者が一体化しない関係を生み出したと言えるでしょう。そして、文字を言葉と切り離して見るこの姿勢が、文字遊びを生んだと言ってよいかもしれません。

その姿勢は今も変わらないと言ってもいいようです。近年、若い人の一部に見られる「ナニ」=「た」という文字の形の分解(見立て)も、ことの善し悪しは別として、文字に対する変わらぬ感覚を示していると考えられます。

なお、上に掲げたじゃんけん遊びですが、多くの場合「チヨコレエト」と発音して、6歩進むという遊び方だったと思います。発音通りに「チョコレート」の音節の数を数えれば、5歩になります。遊びですから1歩ぐらいどうでもいいことでしょうが。

【ここから本格的な日本文化論になります。詳しくは教室の授業で。】
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